導入事例紹介
滋賀県甲賀市様
コミュニティバス可視化プロジェクトに着手
「バスロケーションシステム・乗降データ収集と可視化システム・ デジタルサイネージ」をワンストップ導入し、利用者の利便性向上と路線見直しの エビデンス構築に貢献
- 4ヵ月で全ての車両にバスロケーションシステムを設置し計画通りの運用開始を実現
- 各種データを自動収集しコミュニティバス路線見直しのためのエビデンス構築に貢献
- 検索アプリやQRコードによる接近情報を提供し利用者の利便性が大幅に向上
- デジタルサイネージで路線情報を表示し利用者の不満を改善。インバウンドにも対応
人口減少による公共交通の利便性低下と
バス運転手不足でバス事業改革がテーマに
―― 甲賀市コミュニティバスの概要についてご紹介ください。
甲賀市役所 建設部 公共交通推進課 係長 中村 正太氏(以下、中村氏):甲賀市のコミュニティバスは市役所の公共交通推進課が運行を管理しています。甲賀市は、人口が約8万8,500人(*1)、面積は481.62平方キロメートルで滋賀県の約12%を占めるほどの市域となっています。それゆえにコミュニティバスの運行路線数や利用者数も多いのが特徴です。2004年に旧甲賀郡の5町(土山町、甲賀町、甲南町、信楽町、水口町)が合併して甲賀市が発足し、その5町で運行していた全20路線が現在も運行されており、総利用者数は年間約50万人にも及びます。ただし市内にはスクールバスがないため、20路線の中には小・中学校の通学を担う路線が多く、それが利用者数の多さにもつながっています。
*1:2024年1月1日現在
―― この度は「甲賀市コミュニティバス可視化」に取り組まれました。
このプロジェクトの経緯についてお聞かせください。
中村氏:甲賀市のコミュニティバスには解決すべき課題が主に3つありました。まず、人口減少と公共交通における利便性の低下です。甲賀市も少子高齢化や特に若者の大都市部への移動などの影響で2005年をピークに人口減少が続いています。それに伴い、甲賀市を横断するJR草津線の運行本数が減便され、公共交通の利便性低下が大きな課題となりました。減便を補うためにコミュニティバスや二次交通を効率的に運行し、利用者の利便性をできる限り維持することが喫緊の課題でした。
次に、バス運転手の慢性的な不足です。全国的にバス運転手の人材不足と高齢化が問題となっていますが、加えて“2024年問題”といわれるバス運転者の改善基準告示によって拘束時間の上限や休息期間の基準等が設けられました。甲賀市コミュニティバスにおいても今後は労働環境の抜本的な改善と効率化が求められており、主要な幹線バス路線は維持しつつも、そこと地域の拠点を結ぶフィーダーバス(支線バス)については予約運行に切り替えるなどの施策も検討しています。そのためにはICTを活用し現状の利用率や乗降数を正確に把握した上で、より効率的な運行に改善していくことが不可欠でした。
そして、バス事業の改革も大きなテーマでした。2022年度のコミュニティバスの運行収入は運行経費の約16%で、欠損分は市の補助金によって賄われます。補助金を投じても市民の皆様に利便性を実感していただけない状況は大きな問題と捉え、2025年4月からコミュニティバスの路線見直しを計画するなどコスト削減を目指すほか、乗車するバスの位置情報や遅延状況などを可視化するサービスの提供も重要だと考えました。特に旧5町の路線をそのまま維持したため、バス停の位置や運行時間が非常に分かりにくくなってしまったことも改善が必要でした。また、従来はバスの乗降数を運行便ごとに把握していたものの、バス停ごとの乗降数は把握しておらず、集計方法もバスの運転手さんが手動の数取機でカウントするなどアナログな方法で負担をかけていました。路線の経路を変更する場合は、運行するバス会社に一定期間カウントしていただくようお願いするか、市の職員がバスに毎日同乗して調査するしかなく、そうした属人化もICTで自動化する必要がありました。
これらの問題を改善するため、GTFS(*2)の整備と並行して、バスロケーションシステムやデジタルサイネージなどを活用したコミュニティバス可視化プロジェクトに着手したのです。
*2:General Transit Feed Specification:公共交通機関の地理情報や時刻表情報を共有するデータ共通形式
バスロケーションシステムからデジタルサイネージまで
ワンストップ導入できるメリット
―― ユニ・トランドでは「バスロケーション/乗降数収集システム」、「運行状況調査レポートサービス(MANALYZE)」、「デジタルサイネージ」などのシステムを提案しました。
ユニ・トランドに注目されたポイントや選定の決め手についてお聞かせください
甲賀市役所 建設部 公共交通推進課 服部 淳平氏(以下、服部氏): 選定のポイントは主に5つありました。
第1は、検討した中でユニ・トランドだけが必要なソリューションを一貫して提供可能だった点です。各社ごとに強み・弱みはあるものの、バスロケーションシステムからデジタルサイネージまでワンストップで導入できれば、複数のベンダーから個々に調達し、それを連携したり調整したりする手間が省けるメリットは大きいと判断しました。
第2は、各システムの優位性です。放送装置から自動に運行系統情報を取得するGPS車載器「AZ-119」と乗降センサーが連携し乗降データを自動収集するので、バス運転手さんの負担を大幅に軽減できるとともに、QRコードの運用やMANALYZEでの運行状況可視化が利用者の利便性を高めると感じました。
第3は、導入事例の多さです。自治体ならではの課題を解決してきた数々の経験や知見が当市の悩み解決にも役立つと思いました。
第4は、導入期間の短さです。プロジェクトは年度内予算を調整する関係で業者選定が2020年12月にずれ込み、正式な運用開始は翌2021年3月に迫っていました。そんな限られた期間で導入可能だと明言してくれたのはユニ・トランドだけでした。技術的な裏付けと実績があるからだと信頼しました。
そして第5は、サービスの柔軟性です。提案依頼の段階から当市の様々な要望に可能な限り応えようとする姿勢がユニ・トランドの営業担当者やエンジニアに感じられたからです。そうした総合的な評価でユニ・トランドを選定しました。
可視化はコミュニティバス路線見直しを成功させる
重要なエビデンス
―― コミュニティバス可視化プロジェクトはまだ進行中ですが、ユニ・トランドの各種システム導入による効果や改善ポイントがあればお聞かせください。
中村氏:コロナ禍の影響で利用者数も減少しているため、定量的な効果の確認はこれから本格化させる予定ですが、次のようなメリットを挙げることができます。1つ目は、短期導入を実現できたことです。ユニ・トランドとの正式契約から運用開始予定日まで4ヵ月。非常にタイトなスケジュールでプロジェクトを進めざるを得ませんでしたが、車両50台にバスロケーションシステムを導入し、デジタルサイネージも要所に設置して当初の計画通りシステムをローンチできたのはユニ・トランドの努力のおかげだと思っています。運用開始後に不具合が発生しても対応が早かったため安心して任せることができました。
2つ目は、最大の目的であるコミュニティバス可視化の実現です。2025年度に実施予定のコミュニティバス路線見直しを成功させるにはバスロケーションシステムからのデータが不可欠でした。甲賀市役所の管理画面からも各便の運行時間、渋滞状況、区間・バス停ごとの乗降者数、時間帯ごとの利用傾向などを正確に把握できるので、路線見直しを推進するための重要なエビデンスになります。また、特に評価したいのはユニ・トランドの柔軟な対応力です。通常の乗降センサーは中・大型バス用に最適化されているため、フィーダーバスに使用するワンボックス型の車両には使えません。そこでユニ・トランドはバス事業者と協力してワンボックス車両用に簡易型の乗降数収集システムをカスタマイズしてくれました。幹線のみならず支線までくまなく乗降データを取得できるようになったのは非常に大きなメリットです。
3つ目は、利用者の利便性向上です。甲賀市では若者はもちろん高齢者もスマートフォンの所有率が比較的高いことが特徴です。その上で、若い世代の多くが「もくいく検索」をスマートフォンにダウンロードしていただいている一方、高齢者はバス停ごとのダイヤやバスの現在地をQRコードから確認できる「QR接近情報」をよくご利用いただいています。甲賀市にはバス路線が多く存在するので、これらシステムを導入したことにより利用者からは便利になったという評価を数多くいただいています。ただし、専用アプリのダウンロードがハードルになっている傾向が見られたため、ユニ・トランドに相談したところ、地図上でバスの位置をリアルタイムに検索したり運行中の全路線を表示したりできる「ITNS-バス」(*3)という可視化システムを併用する提案いただきました。現在サービス開始に向けた準備を進めているところです。
*3:北海道北見バス株式会社と国立大学法人北見工業大学が運用するバスロケーションシステム
https://itns.unitrand.net/koka
服部氏:また、デジタルサイネージも利便性向上に大きく貢献しています。多くのバス路線が乗り入れる貴生川駅のロータリーにも設置しましたが、以前この駅ではバス乗り場も明確に決められておらず利用者にご不便をおかけしておりました。現在はバスロケーションシステムの導入を機に路線ごとの停留位置を定め、デジタルサイネージで行き先ごとの乗り場を明確にご案内できるようになり利便性を大幅に改善しました。一方、信楽駅はバス路線の乗り入れ数は少ないものの、海外からの旅行客が多いため、デジタルサイネージによる英語と日本語併記の貢献は大きいと感じています。
こうしたシステムの導入により、コミュニティバスに関する甲賀市役所への問い合わせが格段に減少し、職員が本来の業務に専念できるようにもなりました。
貴生川駅サイネージ
自家用車からコミュニティバス利用へのシフトを促し
カーボンニュートラルを実現
―― コミュニティバス可視化における残された課題や今後の計画などについてお聞かせください。
中村氏:少子高齢化やバス運転手不足が今後深刻化していく以上、残念ながらコミュニティバスの利用者が急に増える状況にはありませんが、甲賀市民でコミュニティバス/デマンドバスを利用したことのある人が約3割にとどまるという調査結果もあります。今後カーボンニュートラルの観点で自家用車からコミュニティバス利用へのシフトを促すことができればその意義は大きく、利用割合を増やす余地は多分にあると考えています。
また、バスロケーションシステムからのデータをMANALYZEで分析し、更なる可視化に活かすとともに、デジタルチケットを運用している企業のシステムと連携させることで、利用者が最も使いやすいと感じていただけるシステムの実現を目指します。
―― 最後に今回のプロジェクトの総合的な評価や今後期待されることについてお聞かせください。
服部氏:各種システムを導入する過程で、データの管理なども含め運用上の課題にも対応する必要がありましたが、ユニ・トランドは常に迅速に対応し、リモートのみならず対面でもサポートいただけたので大変感謝しています。今後はGTFSベースに様々なデータを活用しようと考えていますので、引き続き技術支援をお願いします。
中村氏:今回のプロジェクトは甲賀市全体のICT化・DX化プロジェクトの一環で取り組みました。市役所内のICT推進課による牽引力もあったのですが、ユニ・トランドの対応力、スピード感にも大きく助けられ、県内でも屈指の早さでバスロケーションシステム等を導入することができました。しかしプロジェクトはまだ道半ばです。今後も更なる利便性向上に向けた支援を期待しています。