導入事例紹介

case study

宮城県名取市 様

バス位置情報からキャッシュレス決済までワンストップで提供

~デジタル田園都市国家構想交付金を活用したリニューアルを実現し
利用者の利便性向上と市職員の業務軽減を支援~

なとりん号
宮城県名取市では同市が運行する乗合バス「なとりん号」を15年ぶりにリニューアルするため、公募型プロポーザル方式による入札を実施。ユニ・トランドはバスロケーションシステム、運行状況調査レポートサービス、乗降データ分析、キャッシュレス決済システムを単独でトータルに提案。他の応募者にできなかった一体的な提供と機能・サポートの優位性などが認められ選定いただきました。タイトなスケジュールの中、ユニ・トランドのチームワークによってトラブルもなく新「なとりん号」は予定通りに運行を開始。キャッシュレス決済機能の利用率向上と、位置情報可視化サービス・運行路線表示サービスによる利用者の利便性向上を実現しました。今後は各種データを活用し、より効率的で利便性の高いダイヤ改定につなげていくとしています。

▶▶▶POINT
  • バスロケーションからキャッシュレス決済までのシステムを一体的に提供し公募条件に対応
  • タイトなスケジュールの中、緻密な進捗管理や支援で予定通りの運行開始を実現
  • キャッシュレス決済利用率がKPIの5%を超え7.4%に増加し予定を超えて達成
  • 位置情報可視化サービスや運行路線表示サービスの提供で遅延に関する問い合わせが3~4割減少
■導入前の問題
デジタル田園都市国家構想交付金を利用して
「なとりん号」をリニューアル

―― 名取市の乗合バス「なとりん号」についてお聞かせください。

名取市役所 企画部 政策企画課 主査 行形 洋明氏(以下、行形氏):「なとりん号」とは、宮城県名取市が運行主体を担い、2008年4月から運行を開始した市内を巡回する乗合バスの愛称です。“旧「なとりん号」”は通勤・通学に便利な「幹線路線」と、買い物・通院などに便利な「生活路線」の2系統が運行し、15年間市民の皆さまに愛されてきました。その後、運行委託する事業会社との契約更新を迎え、バスも老朽化したことから、公共交通体系を刷新することになりました。2020年度から2年間かけて調査・検討作業を行い、運行方式やルート、ダイヤ編成など大胆に見直しを行った結果、幹線路線はルートや鉄道との接続を考慮したバス路線として新「なとりん号」に再編。車両15台も全て新車に置き換えました。

一方の生活路線は、乗合バスとしての運行を終了し、利用者の予約に応じて経路やスケジュールを柔軟に対応するデマンド交通に変更。AI(人工知能)が最適なルートを検索・判断するなど、より便利になりました。
乗合バスの新「なとりん号」は2023年10月1日から実証実験運行を開始し、2024年度より本格運行に切り替わります。

―― 「なとりん号」の見直しは自治体DXの一環だったのでしょうか。

名取市役所 企画部 DX推進室 主査 今野 雅人氏(以下、今野氏):その通りです。本市のDX推進室では特に「地域のDX」に注力し、MaaS(公共交通等の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済を一括で行うサービス)、デジタル地域通貨、名取市公式アプリ開発、高齢者向けのスマホ教室、ICT活用推進を担う若い人材育成などの取り組みを行っています。その一環で、公共交通分野にもDXを取り入れ、市民の利便性増進や公共交通が持続的に維持できるよう方針を定めました。DX推進室と、「なとりん号」の運行・管理を担当する総務部 防災安全課とが中心となり、2022年4月からどのようなデジタル実装に取り組むかの検討を重ねてきました。

―― 旧「なとりん号」にはどのような課題があったのでしょうか。

名取市役所 総務部 防災安全課 交通防犯係 係長 髙橋 誠氏(以下、髙橋氏):旧「なとりん号」には、バスロケーションシステム、乗降データ自動収集システム、キャッシュレス決済システムの3つの機能が備わっておらず、運行管理者として課題に感じていました。

まず、バスロケーションシステムがないと、目的のバスが時刻表の時間に来ない時に遅延か運休なのかがかわからないため、防災安全課やバス事業会社に問い合わせをいただくことが多かったのです。お問い合わせいただいてもバスの位置情報を把握できない状況では迅速にお答えすることができません。利用者の中には利便性が悪いと感じられた方もいらっしゃったようです。

また、当時は乗降者数を把握するため、運転手さんがバス停ごとに紙の帳票へ手書きで書き込んでおり、運転以外の負担をかけていたほか、記載内容が必ずしも正確ではない場合もありました。こうしたやり方では、停留所間で何人が乗降したかを把握するOD(出発地と目的地)データが収集できないため、ダイヤ見直しの分析も困難でした

さらに、キャッシュレス決済については、土日祝日のみ運行する一部路線で試験的に導入していましたが、汎用的な決済端末だったため使い勝手に問題がありました。イベントなどでバス利用客が増え、キャッシュレス決済を希望する方が多くなると処理が追いつかず、降車渋滞が頻発。キャッシュレス時代に合ったスムーズに決済できるバス専用のシステムが必要でした。

そこで本市では、内閣府がデジタルを活用した地域の課題解決や魅力向上の実現に取り組む地方公共団体を支援する
「デジタル田園都市国家構想交付金」を利用し、これら3つの機能の導入を目指しました。

名取市マスコットキャラクター「カーナくん」
名取市マスコットキャラクター「カーナくん」
■選定の決め手
「一連のシステムを一体的に提供」という公募要件を
ユニ・トランドだけが対応

―― 「なとりん号」リニューアルに関する公募型プロポーザル方式入札にユニ・トランドも参加し、
1.「バスロケーション/乗降数収集システム」
2.「運行状況調査レポートサービス(MANALYZE)」
3.「MA-Pデータ分析」
4.「キャッシュレス決済システム」
等をトータルに提案。最終的にご選定いただきました。この提案をご評価されたポイントをお聞かせください。

今野氏:主に次の3つです。
第1に、公募の要件としていた、バスロケーション、乗降データ収集、ODデータ分析、乗降者数・遅延の可視化、キャッシュレス決済までの一連のシステムをユニ・トランドが一体的に提供可能だったことです。バスロケーションシステムを提供できるベンダーの多くは、乗降データ収集やキャッシュレス決済を持っておらず、他のベンダーのシステムと連携する必要がありました。また、ODデータについても収集する技術や手法がベンダーごとに異なり、業界標準が確立されていないことなども問題でした。各システムを個別に導入し、最終的に市側で連携させる可能性もありましたが、ユニ・トランドでは全てのシステムをワンストップで提供できる点が評価されたと思います。

第2に、キャッシュレスアプリとFelica機能付きカードを紐づけできる機能が「Suica」にも対応していたことです。
名取市内にはJR東北本線と仙台空港アクセス線が通っています。「なとりん号」は各鉄道駅にも接続しているため、利用者の利便性を考えるとSuicaなどの交通系ICカードを使ってバスと電車の乗り換えをスムーズにしたかったのです。
しかし、全車両にSuica対応の運賃箱を導入するには多額の費用がかかることが分かり、予算や交付金の範囲を超えるため断念していました。ユニ・トランドのキャッシュレス決済システムは、多様なQR決済以外にも、ICカード固有のIDとキャッシュレス決済システムのIDとを連携することでSuicaをはじめとするICカードのタッチ決済も実現できます。本来のSuicaの使い方とは少し異なりますが、低コストでSuicaに対応したキャッシュレス決済を実現できる上に、キャッシュレス決済ブランドの選択肢が広い点などにも注目しました。

第3に、MANALYZEの存在です。乗降数やキャッシュレス決済で蓄積されたデータを多様な角度から閲覧できる環境を構築し、それに対するデータ分析の資源も得られることがメリットに感じました。データを取得しても自治体ではそれを活用できる職員は殆どいないので、専門的な知見を持つユニ・トランドに分析を任せられることも選定の要件となりました。

名取市様システム構成
■導入後の効果
キャッシュレス決済の利用率は運行開始から順調に増加し
KPIの予想を超えて達成

―― ユニ・トランドの一連のシステムが導入された効果についてお聞かせください。

髙橋氏:こちらも3つ挙げられると思います。
1つ目は、新「なとりん号」が当初の計画通り2023年10月1日から運行開始を実現できたことです。スケジュールはシステム調達の段階から決定していましたが、路線の引き直しや時刻表データの修正、テスト環境のチェックなどで進捗は押しぎみでした。ユニ・トランドはシステム構築やバス運用に関する細かなフローを詰めるため、毎週定例会を設けて緻密に進捗管理を行うとともに、名取市役所からの要望やマニュアル類の作成、支援体制構築などを柔軟に対応してくれました。

また、車両が全て新車に置き換わったため、GPS車載器や乗降センサー、キャッシュレス決済端末などを取り付けるための時間や試験走行に充てる日数は限られていましたが、ユニ・トランド側のチームワークのおかげでトラブルもなく、
予定通りに新「なとりん号」の盛大な出発式を迎えることができました。

2つ目は、キャッシュレス決済の活用です。2023年度内のKPIは少し高めの約5%の利用率を目標にしていました。2023年10月1日の運行開始直後から約6%の利用率となり、以降は毎月増加。12月には7.4%にアップしました。

3つ目は、利用者の利便性向上です。ユニ・トランドのバスロケーションシステムには位置情報可視化サービス「MOKUIKUサービス」と「なとりん号運行路線表示サービス」が利用できるようになっています。明確なアクセス数や利用率は今後集計する予定なので、どのくらいの利便性を感じていただいているかは正確に把握できていませんが、遅延や運行状況に関するお問い合わせが体感で3~4割減少しているように感じています。それにより、防災安全課の職員は他の業務にリソースを集中できるようになりました。

■今後の見通し
収集した各種データを活用し
「なとりん号」の維持・確保を市民と一緒に考える

―― 今後の運用計画や、ユニ・トランドに期待することをお聞かせください。

今野氏:近年ではEBPM(Evidence Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)が行政で浸透しつつあり、統計データや各種指標など合理的で客観的なエビデンスを基にして政策を決定し、効果的かつ効率的に実行することが求められています。今後、乗降データやキャッシュレス決済システムから得られるODデータはもとより、時間帯ごとのデータも収集することで、バス路線やバス停周辺の施設の利用予測、混雑が発生する要因など様々に関連づけて分析することができれば、より効率的で利便性の高いダイヤ改定に結び付けることができると考えています。

その意味でも、ユニ・トランドのデータサイエンティストが統計学的な観点からデータ分析を行う「MA-Pサービス」を継続的にいただければ心強く思います。

行形氏:私は今後収集した各種データを市民のための公共交通計画やモビリティマネジメント(過度な自動車利用から公共交通等を適切に利用する状態へ変えていく一連の取り組み)に活用し、「なとりん号」をどのように維持・確保していくべきかを市民の皆さんと一緒に考えることが必要だと考えます。

―― ユニ・トランドも共創型まちづくりの基盤となる「Community MaaS」*の実現をお客様に提案しています。
MaaSと移動データを連携しEBPM基盤として活用することで地域活性化を実現できるので、今後「なとりん号」から生成されるデータを有効活用いただきたいと思います。

髙橋氏:防災安全課でも、独自のデータベースから「なとりん号」のデータを抽出して簡単にグラフ化するなど見える化はしていますが、今後はBIツールと連携させて動的に見える化できる仕組みを構築し、それを市のホームページなどに公開することで、利用状況を多角的に見える化することも視野に入れています。また、今回導入したバスロケーションシステムやキャッシュレス決済システムの利便性を市民の皆さまにもっと知っていただきたいとも考えています。

そうしたデータをダイナミックかつ柔軟に活用する方法や、効果的な周知方法などは、ユニ・トランドの「Community MaaS」の知見が役立つと考えていますので、今後も引き続き支援いただけることを期待しています。

* 「Community MaaS(コミュニティマース」MaaSに移動の目的を促すサービスを連携させ公共交通と地域活性化を実現するとともに、収集したデータをダイナミックかつ柔軟に活用できるプラットフォーム
* 記載の会社名および製品名は各社の商標または登録商標です。