導入事例紹介

case study

香川県坂出市 様

マイナンバーカードとキャッシュレス決済の連携で
バス等運賃の坂出市民割を実現

~デジタル田園都市国家構想交付金を活用し、
ODデータ収集による路線再編や利便性向上など様々な施策を実施 ~

香川県坂出市において、バスなど公共交通の再編や利便性向上を行う一環で、乗降場所別の人数把握やキャッシュレス決済の導入、適正な運賃設定などを実現するため、ユニ・トランドが開発した地域交通・経済を活性化するためのデジタル基盤「Community MaaS」が導入されました。
ユニ・トランドは、坂出市内で路線バスを運行する琴参バス株式会社(本社:香川県丸亀市)に対し、「バスロケーション/乗降数収集システム」、「運行状況調査レポートサービス (MANALYZE)」、「データ解析サービス(MA-P)」を提供したほか、バス事業者およびデマンド型乗合タクシーも運行する複数のタクシー会社に「キャッシュレス決済システム」を提供。さらに
キャッシュレス決済システムには、「マイナンバーカード連携」機能を開発しました。それにより、乗降場所別の乗降データ収集や、キャッシュレス決済システムを活用したマイナンバーカード連携市民割引などが実現。今後はこのノウハウを他の自治体に活用してもらうため積極的に情報提供を行っていく考えです。
▶▶POINT
  • 全国的にも珍しい公共交通キャッシュレス決済システムとマイナンバーカード連携機能を短期間で開発!
  • キャッシュレス決済システムと連携するスマートフォンアプリ(*)でマイナンバーカードを読み取り、坂出市民認証を行うことで、運賃の坂出市民割を実現
  • 地域の乗合交通の運賃を「ゾーン運賃制」へ統一したうえで、キャッシュレス市民割引を実施するという新たな運賃体系を実現し、市民の活発な移動を支援
  • キャッシュレス決済の履歴を活用したODデータをデータサイエンティストが解析し収益改善に向けた路線再編施策などを立案
  • 乗降場所別の乗降データ収集や遅延状況などが可視化したことで利便性向上や利用率アップへの施策実施に貢献

*マイナンバーカードの読み取りには、公的個人認証サービス(JPKI)を扱う民間企業として総務大臣認定を受けた
事業者が提供するアプリ(mytap)を活用

■導入前の問題
公共交通の再編や利便性向上の
施策を打ち出すために必要なODデータ

―― 坂出市における公共交通の概要や現在の運行状況についてお聞かせください。

坂出市役所 政策部 政策課 公共交通係 主事 亀井 大聡氏(以下、亀井氏)
坂出市では長年、JR四国予讃線の坂出駅から郊外部へ伸びる琴参バスが運行する複数のバス路線が運行されていましたが 、人口減少、高齢社会のなかで、市民のおでかけ手段を確保するために、2010年に坂出市地域公共交通活性化協議会を設置し、市中心部の回遊性を向上させるための循環バスや、郊外部の公共交通空白地域を解消するためのデマンドタクシーを導入するなど、地域の移動利便性確保に努めてきました。

しかし2020年頃からは、市の人口減少や新型コロナウイルス感染症の拡大により利用者が減少。公共交通を市民に
とって親しみやすく、将来にわたって持続可能なものとするため、2022年11月に「地域全体が主役の、進化し続ける、持続可能な公共交通」を基本理念とした「坂出市地域公共交通計画」を策定しました。さらにマスタープランである当計画を具体的に実施・推進するために、2023年7月に「坂出市地域公共交通利便増進実施計画」を策定し、9月に四国で3例目となる国土交通省の認定を受けました。

以前は定額運賃の路線と距離制運賃の路線が混在しており、地域公共交通計画においては、運行コストに応じた適切な運賃負担や分かりやすく利用しやすい運賃設定が必要な取り組みとして掲げられていました。そこで、利便増進実施計画において、シンプルで分かりやすい持続可能な運賃体系として、地域のすべての乗合交通(路線バス、循環バス、デマンド型乗合タクシー)の運賃体系を統一することを計画しました。運行系統沿線をおおむね生活圏ごとにゾーン分けし、初乗り運賃200円、ゾーンを跨ぐごとに運賃100円が加算される「ゾーン運賃制」によりすべての乗合交通の運賃を統一することで、サービス水準や運行コストに応じた公平な運賃負担が実現するものです。また、従来は運賃の違いから中心部内の移動では均一運賃の循環バスばかりが利用されていましたが、運賃統一により利用者にとっては運賃抵抗なく都合の良い時間の路線を選択できるなど、利便性を向上させました。また、キャッシュレス決済とマイナンバーカードを連携して住民認証を行うことで坂出市民を対象とした運賃割引制度「坂出市民割」を実施し、割引した運賃は坂出市から交通事業者に補填しています。ゾーン運賃で適正な運賃収入を確保しつつ、市民割により市民の活発な移動を支援することで、持続可能な公共交通と地域の活性化を図っています。

現在運行されている地域の乗合交通は、JR坂出駅を中心とするネットワークとなっており、中心部を巡る循環バス
2系統、市内郊外部へ向かう路線バス王越線、瀬居線とデマンド型乗合タクシー3系統、隣接する丸亀市へ向かう
島田・岡田線、坂出綾川線、瀬戸大橋を渡り島しょ部を経由して岡山県倉敷市へ向かう瀬戸大橋線で構成されています。

―― 以前はどのような課題があったのかお聞かせください。

亀井氏:第1に、バスの利用者数や利用実態を正確に把握できなかったことです。以前はバスの乗務員が安全運転に留意しながら乗降人数を手動でカウントしていましたが、そのやり方では便別の累積人数は分かるものの、各停留所における乗降場所別の人数は把握できなかったのです。公共交通の再編や利便性向上の様々な施策を打ち出すには、停留所別の乗降人数データやODデータ(どの停留所から乗車してどの停留所で降車しているか把握するデータ)を収集する必要がありました。

第2に、キャッシュレス決済が未導入だったことです。現金や回数券による支払いでは、先ほどのようなデータ収集が難しいことに加え、運賃決済の利便性向上により、普段公共交通を利用しない世代にも利用促進を図りたいと考えていました。

第3に、公共交通を維持するための運賃設定です。以前は循環バスの運賃を一律に100円で設定していたため、利用者数が増加傾向にあっても、物価高騰下において、低い収支率と増加し続ける行政による赤字補助が課題となっていました。一方で、市民の生活目線では運賃が上がると利用しづらくなる面もあります。そこで、運賃設定の見直しを行いながら、効果的・効率的な住民利用者支援が必要と考え、先進地の群馬県前橋市で実施されている「GunMaaS」(旧MaeMaaS)のマイナンバーカードの機能を活用した利用者支援策を参考としました。坂出市では、従来から「坂出市地域割引回数券」という紙割引券による利用者支援を行っていましたが、乗務員やバス会社事務員の着札・集計にかかる負担や、割引券の適正な配布数量の設定・公平な配布方法等について課題がありました。

■選定について
「デジタル田園都市国家構想交付金事業」の実施に
必要な要件を満たすユニ・トランドを選定

――ユニ・トランドが提供する「Community MaaS」を、どのような経緯で選定されたかについてお聞かせください。

亀井氏:まずは、路線バス運行事業者の琴参バスのほうで、バスロケーションシステムと乗降センサーを導入しました。地域公共交通計画においても課題とされていた最新技術による利便性向上や利用者ニーズの把握に対して、国土交通省の新モビリティサービス推進事業補助金を活用して実施されています。導入に当たっては、GPS車載器と乗降センサーをバス車両に設置するタイプのため、スマートフォンタイプのバスロケのように充電等の管理コストがかからないことや、乗務員がカウントしなくても乗降数の自動収集が可能になることが決め手になったと聞いています。

次に運賃課題への対応です。坂出市地域公共交通活性化協議会における協議も踏まえて、効果的な方策を検討していたところ、「デジタル田園都市国家構想交付金(デジタル実装タイプ)」のうち、マイナンバーカードを活用して地域課題の解決を図る先進的な取り組みを対象とした「マイナンバーカード横展開事例創出型(TYPE-X)」と呼ばれる メニューがあったことから、キャッシュレス決済システムのマイナンバーカード連携機能を活用した運賃の市民割引などの実施計画について申請し、採択されたものです。事業の実施に必要な仕様を満たす事業者を選定した結果、ユニ・トランドでの開発が決定されました。また、マイナンバーカード連携による運賃の市民割引が実現可能になることに伴い、先に挙げた運賃課題の解決を図るゾーン運賃制導入による地域の乗合交通の運賃統一を含む坂出市地域交通利便増進実施計画を策定し、国の認定を受けることもできました。

■導入後の効果
マイナンバーカード情報とキャッシュレス決済を
連携させて市民割引を実施

―― プロジェクトの経緯を時系列でご説明いただけますでしょうか。

プロジェクトは2022年11月の坂出市地域公共交通計画の策定に始まります。まずは、2023年2月に琴参バスでバスロケーションシステムと乗降センサーを導入。 坂出市でも事業費の一部を補助しました。次に、坂出市のほうで前述のデジタル田園都市国家構想交付金に応募。2023年4月に交付が決定しました。その後、実施にあたって仕様の検討や事業者選定を経て、7月、ユニ・トランドに開発と運営を委託。事業実施に向けて、バス・タクシー事業者、坂出市、ユニ・トランドで具体的に取り組みを進め、10月1日から、路線バスとデマンド型乗合タクシーにおいて、キャッシュレス決済サービスを開始しました。キャッシュレス決済普及推進に向けては、マイナンバーカード連携による市民割引実施前までに、全てのアプリ決済利用者の運賃100円引きや、特定日の運賃無料といったキャンペーンを実施しました。

また、同時に策定に取り組んだ運賃の総合的見直しを含む坂出市地域公共交通利便増進実施計画については、坂出市地域公共交通活性化協議会における協議やパブリックコメントを経て、7月13日に国へ認定申請、審査を経て、9月6日に認定を受けました。

さらにキャッシュレス決済システムのマイナンバーカード連携機能については、2023年末に開発が完了し、2024年1月9日から機能を実装。1月29日からは、マイナンバーカード連携による市民認証を受けたキャッシュレス決済利用者に対する運賃の100円引き支援を開始しました。4月1日からは、高齢者運転免許証自主返納支援事業として同システムを活用したバス・デマンドタクシーを1万円分利用できるプリペイドチケットの交付も開始しています。

ユニ・トランドには契約から運用開始まで期間が短かったなかでスピーディに対応いただき、予定通り無事に運用開始ができました。また、初めての取り組みで戸惑う現場へのサポートや、全国的にも例の少ないマイナンバーカード連携による市民割引機能の開発にあたっても着実に実施していただきました。そうした貢献も高く評価しています。

QRコードをかざす車載器
QRコードをかざす車載器

―― 「Community MaaS」の導入効果についてお聞かせください。

亀井氏:まず、バスロケーションシステムについては、バスの現在地情報、遅延状況、混雑状況等をリアルタイムで知ることができ、バス利用者が安心してバスを利用できるようになりました。また、事業者からすれば、バスの遅れの情報等について利用者から問い合わせがあった際に、無線で確認せずともオンラインで確認して回答することができます。

また、乗降センサーについては、バスの総利用者数や停留所別の乗降者数が自動収集できるようになり、乗務員の負担軽減や、エビデンスに基づく路線再編等への活用が期待されます。

次に、キャッシュレス決済システムについては、運賃決済の利便性向上による普段公共交通を利用しない世代を含めた利用促進効果、事業者の運賃徴収・集計業務の効率化、ODデータ収集による路線再編等への活用可能性などの効果が期待されます。公共交通のキャッシュレス決済といえば真っ先にイメージするのが、交通系ICカードですが、導入費やライセンス料の問題で利用者の少ない地方のバス路線では導入が難しいという話をよく聞きます。独自のICカードを作成した場合は、カード作成・普及コストに課題があり、普及しているスマートフォン決済アプリでは乗車区間によって異なる運賃を自動で判別することが難しいため運用上の課題が生じます。

今回導入したキャッシュレス決済システムは、各自が所有しているスマートフォンに専用アプリをダウンロードして利用でき、乗車時と降車時、車載器にアプリのQRコードを読み取ることで運賃額を自動判別でき、かつ決済はアプリに登録したクレジットカードなどで可能ということで利便性が高いと感じています。また、QRコードを紙に印刷したプリペイドチケットであれば、スマートフォンを所有しない高齢者も利用することができ、デジタルデバイドの解消も図れています。1度使えば確かに便利なものだと実感してもらえるものですが、デジタルデバイスへの抵抗感から最初の1回の利用につなげることが難しく、運用開始から6か月目の2024年3月現在のキャッシュレス決済利用率は6~7%程度と低い状況ですが、口コミ等で利用しやすくお得なものということが広まり、徐々に利用者が増えています。また、プリペイドチケットについては、「テレフォンカードのようなもの」と高齢者に馴染みのあるもので使い方を例示することで、利便性をご理解いただいています。今後利用者が増えれば、ODデータも十分に収集でき、様々な施策に活用できることが期待されます。

さらにマイナンバーカード連携による市民割引については、効果的・効率的な運賃支援が実現でき、公共交通の利用促進、ひいては持続可能な公共交通の実現につながることが期待されます。市民割引が可能になったことで、坂出地域の乗合交通では、ゾーン運賃制による運賃の統一が実現し、運賃課題の解消も図ることができました。交通事業者の運賃設定としては法令上、地域住民と観光客等の来訪者に運賃の違いを設けることはできませんが、坂出市民割では、割引した運賃を坂出市から交通事業者に補填しており、交通事業者としては、それぞれ正規運賃を徴収していることになりますので、法令上の課題もクリアしています。坂出市としては、赤字補助から利用者補助への転換を図ったもので、これにより利用促進効果が図れれば、全体的な支出の削減につながることも期待されます。

■今後の見通し
マイナンバーカード連携割引モデルを
全国の自治体にも積極的に情報共有

―― 今後の施策や計画についてお聞かせください。

亀井氏:まずは、キャッシュレス決済利用率の向上やマイナンバーカード連携者数の拡大に努めたいと思います。
市民のかたの公共交通への関心の低さや、バス等を利用している高齢者のかたのキャッシュレス決済への抵抗感などから、現在の利用率は低いですが、1度使っていただいたかたには、便利なので引き続き利用したいという声が聞かれます。これまでもキャッシュレス決済利用者を対象としたバス運賃無料イベントなどを実施してきましたが、引き続き利用率向上に向けたキャンペーンに取り組みたいと思います。キャッシュレス決済利用率が向上すれば、分析に必要なODデータも充実し、持続可能な公共交通に向けてより効果的な施策を検討することも可能になると考えています。

今回のキャッシュレス決済システムの導入に活用した「デジタル田園都市国家構想交付金」のタイプは、マイナンバー
カードを使った先進的な取り組みを他の地域に広げていくことを前提としたものであるため、坂出市で行ったマイナンバーカード連携割引モデルを全国の地域でも導入できるよう積極的に情報共有を行ってまいります。運賃の見直しと合わせたマイナンバーカード連携による運賃の市民割引は、物価高騰下において地域公共交通を確保維持するための一つのモデルになると考えています。特に観光利用の多い地域では効果的な施策となるのではないでしょうか。

また、公共交通の利用は、移動目的あってのものなので、利用促進にあたっては、目的地となる病院や商業施設との連携も必要になると考えています。今回導入したキャッシュレス決済システムは、他の地域においては消費喚起事業にも活用されているもので、ユニ・トランドが掲げる「Community MaaS」の構想が進めば、キャッシュレス決済システムを活用した交通機関と目的地となる地域の施設との連携が可能になり、さらなる公共交通の利用向上と、地域の活性化につながることが期待され、交通渋滞の解消やCO2の削減などの社会課題の解決も同時に図れるのではないでしょうか。

 
キャッシュレス決済PRチラシ/マイナンバーカード連携チラシ/「坂出市民割引チケット」プリペイドカード   

(参考)坂出市ホームページ:https://www.city.sakaide.lg.jp/soshiki/seisaku/kotsu-dx.html
* 記載の会社名および製品名は各社の商標または登録商標です。